『ゲット・アウト』が見出すホラー映画の新境地
ジョーダン・ピールは自身初となる監督・脚本作品『ゲット・アウト』でアカデミー脚本賞を受賞しました。ピールはホラー映画ジャンルの雛形を上手く使い、更にそれを覆す事で巧みな物語を作り上げています。 Lessons from the Screenplayによる解説動画を元に、『ゲット・アウト』の構成を分析してみましょう。
※この記事には『ゲット・アウト』のネタバレが含まれます。
緊張感の源
第一に、この作品は『普遍的な状況』に置かれた『独特な主人公』を使う事で観客の共感を誘います。「恋人の両親との初めての面会」は多くの人にとって身近な経験で共感されやすいです。
しかしその身近なシチュエーションが徐々に異常に変わっていきます。主人公のクリスが異常を感じるその根源の一つが郊外の環境です。映画冒頭で紹介されるクリスの住居は市街地にあるアパートですが、自然に囲まれた恋人(ローズ)の実家での滞在はクリスの居心地を悪くします。ホラー映画の多くは郊外を舞台にしますが、郊外という環境自体がホラーの源になっているという点は本作のオリジナリティの一つです。
『ユージュアル・サスペクツ』張りのどんでん返し
ローズのキャラクターは、映画の大半においてクリスの味方として描かれますが、最後の最後で敵役である事が明かされます。ジョーダン・ピールは、『ユージュアル・サスペクツ』の最後の転回みたいな事をやりたいためにローズの真相解明を最後まで遅らせたそうです。
事実の発覚を極力遅くする事で、「善良な白人女性が実は悪だったなんて話をユニバーサル・スタジオが許す訳が無い」という信念を視聴者に植え付け、最大の驚きを引き出せるとジョーダン・ピールは確信していたのです。
助けへの懇願をひっくり返す
通常のホラー映画では、最後に警察等の権力者が現れて主人公を救う流れが一般的です。しかし『ゲット・アウト』の場合、冒頭で警官がクリスに対して不平等な態度を取っている事から、エンディングでクリスがローズの首を絞めている場面にパトカーが到着する瞬間は、クリスの運命の終わり予感させます。
しかしパトカーから降りてくるのがクリスの友人であるロッドである事が明かされ、絶望が一気に希望に変わります。このシーンはクリスと視聴者の感情を大きく揺さぶる、とてもパワフルで、映画のエンディングに相応しいカタルシスたっぷりの名シーンです。
終わりに
ジャンルとして確立されたホラーのフォーマットをうまく利用する事で『ゲット・アウト』は視聴者をうまく映画に引き込みます。視聴者にとって馴染みのある雛形を使い、またそれを覆す事は効果的な構成作成の手段です。
References:
https://nofilmschool.com/2018/03/watch-get-out-and-new-perspective-horror
https://www.youtube.com/watch?v=AJLHsXw-LFI